〈“押す”だけでもかなり違うのです〉

 

 手技療法でかかせない“押す”という施術のお話です。

指圧と表現される事もありますね。

どうも世間では押せば効くという風潮がありますが、ただ硬い所を適当に押せば何とかなる訳ではありません。

 色んな治療院に行ったことがある人は分かると思いますが、施術する人によって受けた人が体から感じる施術の印象は、かなり違うものです。

 印象が違うということは、実は施術の効果も体の変化の仕方も違う、ということです。

私が先生から整体を習い始めた頃、この一見簡単そうに見える“押す”施術の指導を徹底して受け、練習をかなり行いました。シモザワ整体における「初級」の、「押す施術」が出来るようになるのに、2年はかかったと思います。

なぜならシモザワ整体では、“押す”だけでも、守るべき、注意するべき項目が山ほどあり、それを実践した上で「押して相手の体を感じ取る」ことが出来なければならないのです。

他の整体院であれば、ここまで気をつかって“押す”事なんてあり得ません。なぜなら、ここまで充実した、“押す”施術のマニュアルや、カリキュラムを持っている学校も教材もないからです。少しの押し方の違いで、どれだけの差が出るのか、知らないのでしょう。

「押し方による差」、たとえば目隠しした人にうつ伏せになってもらい、先生と私と整体師じゃない人3人で「背中を誰が押しているでしょうクイズ」をしたとします。これで、まず当てられない人はいないと思います。

すごく気持ち良い人が先生で、普通に気持ち良い人が私で、それなりに気持ち良いかも知れない、もしくは痛くて気持ちよくない人が整体師じゃない人と、そんな具合です。

もちろん、施術の効果はビックリするほど違います。その違いは、私が何度やっても整えられない変異を、先生は一度で整えてしまうと言えば解るでしょうか。

そういえば、私がシモザワ整体に入って2年位たった頃のことです。先生が担当していた重症のクライアントさんに、先生が施術をする前の少しの時間だけ施術させてもらっていました。その時、「上手になったね~。先生の1000分の1位にはなったかな! と、言ったらほめ過ぎかな?」と、言われたことがありました。それに対して先生は、「ん~、チョットほめ過ぎかな!」と言っていましがた、それでも私には、とても嬉しかった事を覚えています。

 

さて、シモザワ整体でいう「初級」の段階では、大半の人に当てはまる注意点になりますが、この段階でも誰にでも同じ押し方をしていたら怒られます。今まさに、新人のすけちゃんが苦労している所です。

人の身体は、千差万別どころか、一人の人でも日によって違いが出るものです。

筋肉も体も、その時々によって状況は違いますから、その押す場所や状況に合わせて押し方を変えていかなくてはならないのは、当たり前ですよね。まさしくT(時)P(場所)O(場合)です。

まず、押す強さ。筋肉が硬いからといって、強く押せば良いとは限りません。強く押した方が緩まない場合もありますし、背骨や関節の角度や状態によっては、絶対に強く押してはいけない場合もあります。逆に、強く押さなければならない場合もあるので、その見極めが出来なければいけません。

次に、押す角度。“押す=体に力を加える”ということになりますから、体に対して加わる力の方向が重要になってきます。体は平面ではありませんから、少し角度が変われば、加わる力の方向も変わり、体に対する作用(効果)も変わってきます。

基本的には体の面に対し真っ直ぐ地面に向かって押しますが、自分が相手の体に加えている力の方向が、ちゃんと真下の方向に向かっているのか、正確に解らなければなりません。押した方向が真下でも、押した力の方向は真下に向かない事もあるからです。力の角度がちょっと違うだけで、逆効果になる場合もあるのです。

押し方も、体重の掛け方や左右の力のバランス、押すポイントの見定め、どの範囲に圧を掛けるのかとか、押すポイントまでの到達スピードや放すタイミング、押すリズム等、気を付けなければならない要点もあります。

ザックリ簡単に説明しましたが、これでシモザワ整体での“押す”初級の段階です。これが出来なければ、一人でクライアントを任せてもらえることはありません。

先日、新人のすけちゃんが、この“押す”練習のために、ホテルのエステ&マッサージで、上手だと言われて一番指名を取っている人に、練習台になってもらった時の事です。

まだすけちゃんは、自分が押している力がどの方向に行って、体にどう影響するのかを正確には解りません。体を押しているすけちゃんの横で、私が「今はこっちの方向に力が行ってるから、体がこうなってくるので、もうちょっとこっちの方向に押して」とか、「体のこのラインをこの方向で押すとこうなるから」と、細かく説明していると、施術を受けている人の方が「へ~本当だ~」と、少しの押し方の違いで変わる体への影響に驚いて、練習後「勉強になりました! 今日から早速やってみます!」と、張り切って仕事に行きました。まぁ、一度体験したからといって、すぐに出来るようなモノではないですけどね。

でも、ホテルで“上手”といわれている人でも、知らないし、出来ないのですから、この“押す”技術だけでも会得できれば、随分違うと思いますよ。特別な技を使わなくても、いろいろ改善出来るようになりますからね。

 

さて、初級の話は終わって、超上級の先生はどんな押し方をしているのでしょうか。

押した時に、体のどれだけの事が解るかで、押し方も変わってきます。筋肉を緩める目的で押すこともありますが、全く違う場所の調整の目的で押すこともあります。なので、先生が「どのように」押しているかは、残念ながら先生のレベルに達した人にしか解らないのです。

ですが、時々こんな説明をして教えてくれます。

「今、ここを親指で押しているけど、針くらいの太さで押しているんだよ。親指の広さだと、この奥の緊張は緩まないんだよ。」とか、「これね、力は真下に押してるんだけど、深さ2センチの所から力を曲げて、足の方向に力が抜けるように押しているんだよ。ほら、真下だと力は抜けないけど、足の方向に曲げて持っていくと、ほら抜けた。」とか。

 こうやって、目の前で実証しながら説明してくれますので、物理的には不可能に思える、「一般的には」信じられない押し方をしているのは、間違いありません。